Michiyo’s Journal

ハンガリー紀行 Vol.8

朝起きると、空は曇っていた。枕元にあった菩提樹の枝をとり、私はまた香りを嗅いでみた。昨日より香りを失っていたが、枝は元気なままだった。押し花にして持って帰ろうかな。
身支度をして階下に降り、朝ごはんを食べようとして驚いた。ここは紅茶がないのだ。たくさんの種類のハーブティーとフルーツティーがあったが、紅茶がない。この辺りの人は紅茶を飲む習慣がないのだろうか?朝食会場は閑散として、誰もが黙々と朝食をとっていた。外は雨が降り出していた。

今日のコンサートは野外のはずだったけれど、この調子では屋内になるのだろう。風邪は治ってきていたが、くしゃみや涙に悩まされていた。以前ウイーンに住んでいた頃にどうやらカスターニャの花粉症になってしまっていたらしいのだが、この街にはカスターニャが咲き乱れていた。必要以上に外出するはやめよう、私はそう思った。お土産を買いに一度出かけたほかは、一日中ベッドでおとなしくしていた。夕方にはコンサートがある。それを楽しみに。
コンサート開始の30分前に私たちは井崎先生と待ち合わせをしていた。雨は上がっていて、少し肌寒い風がふいていたが、井崎先生は半袖のTシャツで軽快に現れた。今日の会場は県庁舎ホールになったんだよ、響きすぎて!と、顔を見るなり、井崎先生が言う。リハーサルを終えたばかりの先生の顔はそれでも自信に満ちていた。先生は私たちを席に案内してくださった。招待席と連れて行かれた席は、一番前の真ん中だった。さりがけに、先生は日本語で書かれたプログラムを渡してくださった。私たちのためにわざわざご自分で作ってくださったのだろう。ヨハンシュトラウスやレハールばかりの、ウイーン音楽の夕べだった。
一曲目からブラボーも拍手も止まらない。休憩中もお客様たちが興奮している。それもそのはず、本当に素晴らしいコンサートだった。井崎先生から生まれてくるリズム感、演奏家たちの目はピタリと指揮者に注がれて全く集中力がかけない。井崎先生のコンサートは、いつもそうだけれど、終わると目が回るくらい集中して私も聴いてしまう。オーケストラの音色も美しい。ソプラノの独唱もあって、いいなあ、私もこうして歌いたいと羨ましくなった。生き生きした音楽の中で。終わらぬアンコールの拍手、3曲もアンコールに答えた演奏の後、連れの二人はため息をつき、こんな素敵なコンサート初めて、と言った。演奏家としては、私の演奏もしょっちゅう聞いていただいているだけに、ちょっと複雑な気持ちだったけれど、でも、本当に素晴らしかった。
終わった後、お客様の一人が話しかけてきた。おめでとうございます、こんな方が日本にいらっしゃるって、日本は素晴らしい、と、私たちに言った。私は、私たちも彼をとても誇りに思っています、と、答えた。ご家族ですか、と聞かれて友人ですと答えたけれど、Kさんは、お母さんに間違えられたのかなあと後で嬉しそうだった。醒めやらぬ興奮のうちに私たちは隣のピッツェリアにはいり、軽い夕食をとった。なかなか美味しくて、期待していなかっただけに嬉しくなった。来てよかった。ちょっと無理なスケジュールかと思ったけれど、いろんな経験が私の中で音楽になって実をつけていくのを感じた。ハンガリー最後の夜だった。

ハンガリー紀行8

ハンガリー紀行8-1

2016-06-16 | Posted in Michiyo’s JournalNo Comments »