Michiyo’s Journal

ハンガリー紀行 Vol.9  <最終回>

ベッドの脇に差し込む光が眩しかった。枕元の菩提樹の葉は薄い緑に透けていた。荷造りをしなければ。そう思いながらもう一度目を閉じると、昨夜の音楽が井崎先生の躍動的な姿とともに浮かんできた。音楽の中で私は再び眠りにひきこまれた。アラーム音でハッとし、急いで身支度をして階下へ降りると、Kさんたちはもう食事をとっていた。もう朝の散歩は済んだのだという。パンと卵と野菜とヨーグルト、日本で毎日摂る朝食と変わらないものを、たっぷりのお茶といただいた後、部屋に戻り全ての荷物をつめこんだ。最後に枕元の菩提樹の枝をとり、もう一度香りを楽しんで、本に挟んだ。

チェックアウトをした時にはタクシーがもう来ていた。井崎先生が手配してくださったのだった。受付の人が聞く。
あのタクシーはあなたを待っているのか?二人のレディを待っていると言っているが。
わからない、私は二人のレディじゃなくて一人のレディです
と、真面目くさって答えると、受付の男性は困った顔をしてわかっています、と言った。しまった、冗談は通じないらしい。そこへ井崎先生が見送りに来てくれた。Kさんたちはまだ旅行を続けるのでここでお別れ。名残惜しくタクシーに乗り込むと、無口な運転手は慎重に運転を始めた。空は晴れ渡り外気は澄んでいた。タクシーは窓を開けて走っていたので、涙が止まらなくなった。私はマスクをして目を閉じた。空港まで一時間10分。目を閉じる前の最後の景色は、広い緑の草原に赤いケシの花がチラチラと咲く光景だった。

空港に着くとチェックイン、どういうわけか係員が間違えて私のチケットをその場でキャンセルしてしまい、再発行に時間がかかった。乗り継ぎは五時間以上あるのだ。もし次の便に回されても構わないけど、と思っていたら、係員のお兄さんが嬉しそうにヒャッホーと言った。チケットが取れたらしい。
荷物検査を終えてゲートに行くと、何やら異様な様子。赤い服を着て顔に三色ペイントをした人たちが並んでいる。大声で『リオ、リオ、ウンガリオ』と叫んでいる。そういえば、今日はサッカーのオーストリア・ハンガリー戦があると言っていた。雄叫びをあげる人たちに、幾分かの恐怖を感じる。サッカーをする人や見る人たちは独特にエネルギッシュだ。息子も昔はサッカーが大好きで、大怪我をして帰ってきたものだった。興奮しているからゲーム中は痛みを感じないのだと言っていた。すごい集中力だと感心したものだった。帰宅しても痛いというとやめろと言われるので泣き言を言わなかった。好きなことに関しては異様に我慢強いのは私譲りだと密かに誇りに思ったりした。そういえば井崎先生も学生のときサッカー部にいたと言っていた。あのエネルギッシュな音楽はそこから来るのかも。そんなことを考えているうちに搭乗時間となり、私は飛行機に乗り込んだ。窓から見えるブダペストの街が小さくなって後方への消えた。なぜだかわからないけれど、とても好きになったハンガリー。オーストリアと似ているけれど、もっとしっとりと肌になじむ感じの国。Viszontlátásra!

ハンガリー紀行9-1

2016-06-16 | Posted in Michiyo’s JournalNo Comments »