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2016-07-11

ソウル紀行 Vol.3

『昔は祭祀は午前1時から3時の間に行われました。王様はその前は準備の期間として身を清め、ニンニクやネギなどの香りの強いものを食べず、葬式に行かず、死刑などの書類にはサインをせず、音楽も聴きませんでした。』

ガイドさんの説明に驚いた。亡くなった人の霊を迎えるのに、にんにくを食べないのはわかる。ドラキュラだって嫌いなのだ。死刑をしないのもわかる。葬式に行かないのもわかる。悪霊にとりつかれるのを恐れたのだろう。なぜ音楽を聞かないの?

私の質問にガイドさんは答えた。

『楽しむのは亡くなった方に申し訳ない気持ちだからです。』

儀式の時は音楽をし、踊りも踊るのだそうだ。だが、ここは女人禁制で、演奏も踊りも全て男性が行うのだという。お供え物の調理も全て男性のみで行うのだ。調理と言っても、全て生物。牛豚羊を連れてきて屠殺し、その生肉を捧げる。何種類もの米と、栗などの穀物、野菜、全て生でなければいけない。祭祀が行われる建物の横に、お供え物を吟味する場所があり、やはり黒い四角いタイルを敷き詰めてあった。

本殿には19の扉が並んでいた。19人の王様の位牌を祀ってあるのだそうだ。今も残る300人ほどの王家の子孫たちが今でも祭祀を取り仕切る。国からお金をもらってするのだそうだ。
『普段は普通の人として暮らしています。例えば一人はテレビのプロデューサーでした。今は引退して祭祀のことだけされています。』
本殿の屋根の上に、一昨日見たのと同じ猿かカッパかわからないものが並んでいる。あれはなんですかという質問にガイドさんが答えた。
『西遊記、一番前が三蔵法師で、孫悟空、沙悟浄、猪八戒、一番後ろは龍で、王様の象徴です。魔除けのために飾られているのです。』
やっぱりカッパや猿だったのか!でも、西遊記ということは仏教なのですね、というと、ガイドさんは、仏教と儒教です、と答えた。
長い本殿、ガイドさんは正面から見るのが好きだというので、私も正面から眺めてみる。初めは7人の王様を祀るところから始まったそうで、時代を経るごとに増築されて今に至ったのだ。
現世では東側が上位だが、あの世に行くと逆になり、西側が上位になるのだという。西側から高位の歴代王の祭壇が並ぶ。ここに、祭祀の時は穴の空いた30センチ掛ける16センチ掛ける16センチの箱を使って香を焚いて魂を呼び寄せ、音曲を奏でる。魂はその穴から出入りすると考えられていたのだそうだ。祭祀が終わると、祝詞と幣帛が燃やされ、魂はその煙に乗って天に帰っていくとされているのだという。
もう一つの祭殿の前の庭にたくさんの鳥がいた。黒く、羽が美しく青く光っている。
『なんの鳥ですか』
『あれはカササギです。カラスの仲間です。韓国ではカササギは縁起の良い鳥で、カササギがなくと、遠くにいる愛しい人に会えると言われています。』
いったいどんな声で鳴くのだろう?そう思いながら次の祭壇へと向かった。
『ここには、日本人も一人埋葬されています。李方子様です。最後の王様の王妃さまです。』
こちらは、主祭壇で祀っていない王様やお妃が祀られているのだそうだ。どちらに祀られるかは後世の人たちが考える功績によるのだという。秀吉の朝鮮出兵の時一度全焼し、再建されたというこの建物も、赤と緑で彩飾されている。華やかですね、というとガイドさんは答えた。『これは一番地味なんです。赤と緑は自然の中にある色だから、地味なんです。』なるほど!これから私も赤や緑の服を着たときにはそう言おう!

 

 

 

 

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