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2016-06-07

イスラエル紀行 Vol.3

 

ローマ教会の後ろを振り返ると、パイプオルガン。演奏家としてはどうしてもそれを確かめずにはいられない。まだ新しいように見えるそのオルガンの下のドアを通って中庭に出ると、そこには聖ヒエロニムスの像があった。彼は聖書を初めてラテン語に全訳した人だそうで、この場所の地下に、40年一度も陽の光を浴びることなくこもって、翻訳作業をしたという。くる病になってたんじゃないかと余分な心配をしつつ、とうとう、イエスが生まれたという場所へ。それは地下の洞窟だった。カーテンの下の入り口はとても小さくて、頑張って二人通れるかなというくらい。日本じゃないけれど、人々はそこに行儀よく列を作って礼拝の順番を待っていた。

え、イエスは馬小屋で生まれたんじゃなかったっけ?こんな地下に馬小屋があったとは思えないけど…と不思議に思いながらも、私も列に並んだ。その場所の横に聖職者が立って、順番を見張っていた。かがまなければ入れないその場所に、多くの人が膝をついたのだろう、足のところは大理石がくぼんでいる。どの人もひざまづき、手をついて、その台座の下の黒い石にキスをしているようであった。感激のあまり終わった後も聖職者の手を舐めているのではないかと思うほどキスを繰り返す女性もいた。
とうとう私の番。他の人と同じようにひざまづき、カーテンの中に頭を突っ込んだ。たくさんの香炉が下げられていた。周りの壁には幾つかの絵が描かれている。イエスの物語なのだろう。ここを、多くの人が憧れ、敬虔な思いで祈りながら口づけをしたのだろう、と思うと、どんな感触なのか知りたくなって私も口づけをしてみた。
それは黒い石だった。那智黒のような黒い石。周りは銀色の星形をしているが、その石は星形から数センチ下にあり、唇をつけると、あまりの滑らかさに驚いた。この石の性質なのか、みんなが触るからなのか、不思議に思いつつ立ち上がると、聖職者が私に記念のお札をくれた。

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