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2016-06-08

イスラエル紀行 Vol.9

昼食をとるために私たちが向かったのはジェリコだった。紀元前1万年からあったと言われる世界最古の都市。そして、海抜マイナス260メートルのところにある、世界で最も低いところにある都市。ラジャイが入っていくと、背の高い色の黒い男性が丁寧に挨拶をした。この店の主人だった。私たちが席に案内されると、何も言わないうちにジュースと食べ物が運ばれた。ジュースはグレープフルーツだった。甘くてとても美味しい。そういえば、日本でもイスラエル産のグレープフルーツを見るような気がする。でも日本で飲むよりずっと美味しいグレープフルーツジュースだった。
食欲はなかったのに、ジュースを口にすると、何か食べられそうな気がした。死海でのトリートメントのせいか、ぐったりと疲れた感じだった。

がらんと広い食堂は、時間のせいかだいぶ人が少なかった。もう午後2時を過ぎていた。頭の上には大きな扇風機が回っていた。左手の二つ離れた席では男性が二人、たくさんの食べ物をテーブルに並べて食べながら、煙草を燻らせている。右側のテーブルでは疲れた様子のカップルが黙って食事をしていた。他にも幾つかのテーブルに客がいて、ボーイたちがテーブルの間を忙しく歩き回っていた。ラジャイはジュースが生ぬるいと言って席を立つとコップ一杯の氷を持って戻ってきた。全員に分けたのだが、私が慌てていらないというと、歌い手だから喉を大事にするんだね、と、笑いながら言った。僕もいい声してるんだよ。あとで歌ってあげる。
デザートに運ばれてきたのは得体の知れない白い塊だった。またもや好奇心に突き動かされて、私はスプーンで一口すくった。ミルク?甘い。そして、米粒が入っている。
『ラクダのミルクのプディングだよ』
と、ラジャイが言った。僕たちは牛と羊とヤギとラクダとラバのミルクを飲む。ラバのミルクだけはすごく高くて、特別な女性しか飲むことはできない。ラクダは肉も食べるんだよ、特にコブは脂が多くて、肉は少ないけれど、すごく柔らかくて美味しいんだ、と嬉しそうにラジャイが説明した。

食事が終わると主人がやってきて、私の手を握り、じっと目を見つめてからその手にキスをした。なんてきれいなんだ!と、彼が言うとラジャイが笑いながら割って入り、彼はきれいな人が好きなんだよ、と、私たちを土産物売り場へ連れて行った。死海の砂で作った石鹸を買ってきて欲しいと、斑目さんに頼まれていたので、私たちは石鹸を探した。売り場の男の子が石鹸はここだと教えてくれた。黒いのと白いのがあるんだよ。色の黒い人は黒い石鹸、白い人は白い石鹸を使うんだ。
冗談に笑いながら、石鹸を見ていると、腕を貸してと彼が言う。腕を差し出すとその上に何やら黒いクリームを塗りつけた。これはこすっても水で流しても取れない、と言ってこすってみるが、確かに取れない。『でもね、こうすると取れるんだ、これは磁石なんだけど』
そう言って彼はティッシュに磁石を包んで肌の上を滑らせた。するとクリームがみるみる取れていく。鉄なの?これと死海は何か関係があるの?質問したかったけれど全く買う気がなかった私は、笑ってその場を去ろうとした。本田さんが石鹸を清算しに行くと、彼は私を手招きした。さあ、この石鹸で手を洗ってみて、と言われるがままに手を洗っていると、男の子はいろんな質問を私に浴びせた。本田さんは私の夫なのか?noと言うと、私が結婚しているのか、恋人はいるのか…流石に、ラテンの国だなあ。男性は義務であるかのように口説いてくる。
口説き文句の途中でラジャイがまた私のところに戻ってきて、彼は口をつぐんだ。本田さんは、何やらしゃべっているけど聞き取れない。まだ耳が戻らないんだな、と私は思った。でも、さっきの口説き文句たちはしっかり聞き取れた。声の大きさが違うのかしら?

店から出ると強い日差しが真上から照りつけた。立ち並ぶナツメヤシの木にはデーツがたくさん実っていた。

イスラエル紀行9
食事の初めに必ずこんな形でサラダが並ぶ

イスラエル紀行9-2
ナツメヤシ

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