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2016-06-09

イスラエル紀行 Vol.12

朝食会場から戻ると、ひどくなった風邪を懸念して抗生剤を飲み、わたしはまたイスラエル紀行を書き始めた。

わたしはこの旅の前から、旅の出来事を書き留めておこうと決めていた。書いてください、と、言われていたからだった。

三ヶ月に1回くらい、わたしはある人に電話をする。とてもよく当たる占い師さんだ。今回の旅が決まった時も、わたしは彼女に尋ねたのだ。イスラエルに行くんです。歌いに行くんですけど、安全でしょうか?気をつけたほうが良いことはありますか?とわたしはきいた。彼女はしばらく唸ったあと言った。
みち代さん、あなた、ここには仏様の御使いで行くんですよ、見たことない聞いたことない波動をその地の皆さんにプレゼントするために。不思議ですねー、砂漠の国なのにねー、仏様なんです。護られてます、大丈夫です。水の精にも護られてますねー。仏様と水の精、キリストも、でもねー、みち代さん、仏様もキリストも、水の精もどれがいいとか悪いとかないんです、護られてますよ、スケジュールは変更、変更、変更、滑り込みでどんどん入ってきますがすべて受け入れてくださいね。それから、書いてください、と言っています。みち代さんは特殊な記憶力の持ち主なんです。それを生かして、書いてください、とメッセージが入ってきます。

不思議だった。わたしは笑って答えた。確かに仏様の使いかも。だって大覚寺の大僧正からの依頼で行くんです。彼女は驚いて笑った。そうですかー、仏様の御使い、仏様のお仕事をするんですよー!!!

彼女の言葉の他にも、理由はあった。生徒や友人が、わたしが日本を離れるのを寂しがるので、毎日書いて知らせるからね、と言ってあった。本当は行きたい人はみんな一緒に連れて行きたいくらいだけれど、そんなわけにいかない。少しでも旅行気分を味わってもらいたいと、旅行記を書くことを決めていたのだ。だが書いているうちに書いて良かった、と思った。何しろスケジュールがめまぐるしくて、書かなければ何がどうだったのか、さっぱり忘れてしまいそうだったからだ。

忘れないうちに書いてしまわねば、と、前日までの旅行記を書きあげ、そしていつのまにかまた眠ったようで、気がつくと汗だくになってベッドの上にいた。夕方になろうとしていた。薬のおかげか、体が急に楽になっていた。声を出してみた。大丈夫、歌えそうだ。

イスラエル紀行12-2 イスラエル紀行12

夕方六時からセレモニーのリハーサルがあった。プラネタニアに着くと、会場の左手にホールがあった。瞑想ルームなのだそうだけれど、立派にホールだった。曲線で形作られた天井は、独特に美しい音響を作る。会場に着くと、作曲家、シンセサイザー奏者の西村さんはもう到着していた。初めまして、の挨拶もそこそこに、私たちはリハーサルを開始した。そして、子供達が歌い、班目さんのお嬢さんが日本舞踊『道成寺』を舞った。花柳流の名取なのだ。わたしはかぶりつきの特等席でそれを見ることができた。すごいなあ!数年前に演じた『清姫』を思い出しながら、わたしは踊りに見入った。あのとき作曲家の西村朗さんが終わったあとで「本当に蛇に見える歌い手さん初めて見ました。どう育ったらそんな風になるんだ」と言っていたことを思い出した。ひどいなあ、でもきっとこれは褒め言葉なんだろうとそのときは思った。踊りを見ながら思った。清姫ってかわいいなあと。彼女には赤い振袖がよく似合う。恋をする清姫、恨んで安珍を追う清姫。柔らかい動きから激しい動きまで、見事な舞だった。
次はわたしがジャネットさんと演奏した。宇宙とか、天体とか、自然とかに関係した歌を、とリクエストされていた。わたしが選んだ2曲はルサルカの月に寄せる歌と、ブラジル風バッハだった。国境を越え、人種を超え、種別まで超える愛を天体に向かって歌う歌と、バラ色に暮れていく空の下、美しくたそがれる様子を見ていると、人生の悲喜こもごもがすべて愛しいものと思える、と歌う歌。斑目さんに頼まれたとき、きっと斑目さんの思いが凝縮した歌はこれだと思ったのだった。

リハーサルが終わって会場を出ると、空は、ちょうどブラジル風バッハに歌っているような美しいバラ色に染まっていた。明日、この地に、イスラエルで最も大きいプラネタリウム、プラネタニアがオープンする。それを空も祝福しているようだった。

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